運痴よ死ぬな!

運動音痴は何かとつらいこと多い。つらい時期を振り返って、今どう生きているかを書いてみる。

全員、犬より遅い。

足が遅いせいで連日嫌な思いをしていた小学3年生のある日、
近所の犬が逃げたことがあった。


ちょっと黒っぽい柴犬みたいな雑種の子犬、その名もゴロ。
いつもワンワン吠えまくって、全然飼い主の言うことなんか聞かない子だった。


遊ぼうと思って子供たちがそばによっても、喜びすぎているのかひどく吠えて
鎖がちぎれんばっかりに走って首輪のせいで引っ張り戻されるみたいになって
少しかわいそうにも見えた。


どういうタイミングでだったか覚えてないけど、
ある時つないでいた鎖からゴロが自由になってしまった。
近所の子供たち5人ぐらいで遊んでいた時だったと思う。


その5人の中には私よりひとつ年上で、リレーのメンバーによく選ばれるユカちゃんがいた。私とユカちゃん以外は男の子で、体格のいい子やすばしっこいもいた。


大人が見てないときにゴロが鎖から離れて逃げてしまったから、
5人で必死に捕まえようとしたけど、ゴロは人間なんかよりぶっちぎりで足が速い。


ものすごいスピードで田んぼを駆け回って、子供たちの誰もゴロをつかまえられない。
リレーのユカちゃんも、ガタイのいいコウちゃんも、タースケも、カズも。私も。
すごい勢いで田んぼのかなたに走り逃げて行って、追いかけることすらできないのに


同じスピードで疲れることなく走って戻ってくる。
でも、絶対捕まえられない。また田んぼのかなたに走って行って、
私の記憶ではゴロは戻ってこなかったと思う。


その前にも、ゴロは近所の家のニワトリ小屋に乱入して、飼われていたニワトリを
食べちゃったことがあったので、近所の人もゴロの飼い主もそれ以上探さなかったと
記憶している。


その時、思ってしまった。
おそらく、人間の中の一番足速い人でもゴロにすらかなわないんじゃないかって。
だとしたら、私の足が遅くても、誰かの足が速くてもどうでもいいんじゃないかって。


ずっと心にしまっていたのに、毎年毎年丸二日も正月に駅伝を放送するから
つい「急ぐんなら車で行けよ。わざわざ疲れるのに人間が走って、泣いたり怪我したり意味わかんね。」と口に出してしまったり、


世界陸上とかで盛り上がってるときに「一秒以下の時間を縮めるために何年も練習するとか意味わかんね、練習しなけりゃ何年もある時間を、一秒以下を削るために使うってどいこと?」とか思っちゃってたり。


本当に呪いともいえる黒い感情がときどき漏れ出してしまう自分を
少しだけ反省できるようになったのは自分も大人になったということかしら?と思える今日この頃です。


でも、足が遅いせいで毎日苦しみ、死ねとまで言われていた私には目が覚めるようなできごとだった。


「全員、ゴロより遅い。」


足が遅いせいで苦しんでいる人がどこかにいるなら、人間の速いなんて知れてるから
苦しまないでほしいと思う。